北海道大学トポロジー理工学教育研究センター

生命系トポロジー理工学研究プロジェクト

このプロジェクトは、生命系に見られる様々なネットワークのトポロジー構造を解析し、観測される生命現象との関係を明らかにしようとするものです。

ひとつの大きなテーマとして、生体組織異常とトポロジーの関係を明らかにします。例えば、癌に代表されるような生体組織異常が作るネットワークのトポロジーは正常組織のそれとは異なっていることがわかってきましたが、このネットワークを特徴付ける方法としてそのトポロジー的な性質を利用した解析を行います。また、トポロジー新技術開発プロジェクトと連携して、生体組織を可視化してトポロジー構造を抽出する技術の基礎を構築します。このような技術が確立すれば、将来は外科手術をすることなく癌組織の識別や診断が可能になるかもしれません。

もうひとつの生命系トポロジーの研究として、粘菌ネットワークにおける空間トポロジー認識のメカニズムを解明します。粘菌はその体の形を自由に変えることができますが、環境のトポロジーを認識してその形を変形させる振る舞いをすることがわかってきました。図のように、迷路(約4センチ四方)の中をいっぱいに広がる粘菌変形体(図aの黄色の部分)に二つの餌場所(AG)を与えると、粘菌は約4時間で行き止まりの経路に伸びていた体を縮めて(図b)、最終的に最短経路にだけ体を残して(図c)、両方の餌場所に集合しました。このような体形をとると養分の吸収が最も効率的になるので、この粘菌は与えられた迷路を解いてまんまと餌にありついたということができます。このプロジェクトでは、粘菌の知性ともいえるこのトポロジカルな最短経路導出能力のメカニズムを探ります。

その他にも、様々な生命系ネットワーク上の統計物理学的性質とそのトポロジーとの関係を示唆する現象は数多くあります。例えばニューラルネットワークとスピングラス系には相補的な関係があることが知られていますが、そのトポロジカルな性質がメモリー効率に何らかの影響を与えている可能性があります。また、生命系の相互作用のネットワークトポロジーがその系の集団的運動に大きな影響を与えることでしょう。このような関係性の背景にある生命系トポロジーの基盤を構築していきます。


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